読みもの

「Asumone,」キービジュアル制作者memが紡ぐ日々の物語

「Asumone,」のトップページを彩るのは、北海道・東川町に暮らしながら、日々の風景や旅先での思い出をちぎり絵で表現するmem(メム)さんの作品。ちぎった紙を一つひとつ貼り重ねることで生まれるやわらかな質感と温もりのある作風が、「Asumone,」の目指す世界観にピッタリだと魅了され、memさんにラブコール。今回のコラボレーションが実現しました。
自然の風景や日常のワンシーンを切り取るちぎり絵の魅力、作品に込めた想い、そして北海道・東川町での暮らしについて、お話を伺いました。

目次

作品に込めたのは、日常や旅で出会った
人生の先輩たちの「生き生きとした時間」

今回、memさんに制作をお願いした「Asumone,」のキービジュアルには、さまざまな人々が人生を謳歌している様子が表現されています。
「バックパッカーをしていた頃、ヨーロッパの街で印象的だったのは、年を重ねても誰もがいきいきと人生を楽しんでいる姿でした。両親も、自然が大好きで山の奥に住んで、飼っている鶏の卵を食べたり、石炭でストーブやお風呂を沸かして生活するなど、家族で楽しく暮らしていました。子どもの頃はそれが特別だとは思っていなかったのですが、大人になって振り返ると、本当にいい生き方をしてこられたんだなと思います。そういう風景がずっと心に残っていて、今回の作品にも反映させました」
さらに、memさんが現在暮らす北海道・東川町での人々の暮らしぶりも、作品に影響を与えています。
「東川には、木工作家さんや農家の方など、ものづくりをしている人がたくさんいるのですが、皆さん本当に楽しそうに暮らしているんです。年齢を重ねても、自分の手を動かして何かを作ったり、自然の中で自分のペースで暮らしたり。畑の野菜を分けてもらったり、山の恵みを生かして手仕事をする日常が、すごく豊かに感じられます」
そして、memさん自身の両親も、こうした「自分らしい生き方」を体現していた存在でした。


memさんが手がけたちぎり絵のモチーフ一つひとつは、最終的にデザイナーによって組み合わされて完成。「最初にみたときに、『こんなふうに見えるんだ!』と、自分でも新たな発見がありました!」とmemさん。


memさんが手がけたちぎり絵のモチーフ一つひとつは、最終的にデザイナーによって組み合わされて完成。「最初にみたときに、『こんなふうに見えるんだ!』と、自分でも新たな発見がありました!」とmemさん。


memさんが手がけたちぎり絵のモチーフ一つひとつは、最終的にデザイナーによって組み合わされて完成。「最初にみたときに、『こんなふうに見えるんだ!』と、自分でも新たな発見がありました!」とmemさん。

紙をちぎることで生まれる
「偶然の美しさ」

memさんが本格的にイラストレーターとして活動を始めたのは2015年。もともとはグラフィックデザインを学んでいましたが、専門学校時代の先生に「イラストを描いてみたら?」と勧められたことをきっかけに、徐々にイラストへとシフトしていったといいます。
「道を示してくださった先生は、絵をたくさん描いていた私のことを、よく見ていてくれたのだと思います。イラストを仕事にした最初の頃はパソコンを使ってデジタルで描いていましたが、手を動かして作業するのが好きだったので、試行錯誤しながら自分に合った表現方法を探していたら、自然とちぎり絵にたどり着きました」
紙をちぎることで生まれる偶然性──狙った形にならないからこそ新たな発見があり、貼り直すことでレイヤーができ、深みが生まれる。それが、ちぎり絵の魅力だとmemさんは語ります。
「振り返ると、小さな頃から紙を切って貼るのが好きでしたし、デジタルで絵を描いていたときも、いろんな素材を取り込んでコラージュ風の作品を作っていました。今はそれを、実際に手でやっている感覚です」


現在の創作活動の原点ともいえるmemさんが幼稚園の時に作成したちぎり絵。モチーフは当時飼っていたニワトリとお花。


現在の創作活動の原点ともいえるmemさんが幼稚園の時に作成したちぎり絵。モチーフは当時飼っていたニワトリとお花。


現在の創作活動の原点ともいえるmemさんが幼稚園の時に作成したちぎり絵。モチーフは当時飼っていたニワトリとお花。

ちぎり絵で描く、
自然のなかの豊かな暮らし

東川町に暮らすようになり、memさんの作品のモチーフは身近なものが中心になりました。
「東川町は自然が豊かで、季節の移り変わりがはっきりしています。冬は雪が積もって静かですが、動物の足跡が残っていたりして、そこから作品のアイデアが浮かぶこともあります。春になると植物が芽吹き、夏は緑が濃くなり、秋には紅葉が鮮やかに広がります。そうした景色の変化を見ていると、描きたいものが自然と増えていきます」


memさんの作品作りのインスピレーションにもなる、表情豊かな東川町の春夏秋冬。


memさんの作品作りのインスピレーションにもなる、表情豊かな東川町の春夏秋冬。


memさんの作品作りのインスピレーションにもなる、表情豊かな東川町の春夏秋冬。

最近は、リサイクル紙や染めた紙を使うことも増えました。
「偶然の出会いが面白いんですよね。子どもが破いた紙を見て『この形、何かに使えそう』と思ったり、たまたま染まった紙が作品の雰囲気を変えたり。ちぎり絵はとても自由で、素材の組み合わせや貼り方、色の重ね方によって、まったく違う表情になるんです」
手を動かしていると、新しい発見もたくさんあるといいます。
「『この色を重ねたら、思っていたより深みが出るな』とか、『この形、動物の毛並みにぴったりかも』とか。そんな試行錯誤が楽しくて、やっぱり私は手を動かして作ることが好きなんだなと、ちぎり絵を続けながら改めて感じています」


大きな窓際がmemさんの作業スペース。目の前には大自然が広がっています。


大きな窓際がmemさんの作業スペース。目の前には大自然が広がっています。


大きな窓際がmemさんの作業スペース。目の前には大自然が広がっています。

日常の延長線上にある
これからの未来

「この暮らしの延長線上に未来があるのが、自分にとっては一番自然なことなんです。子どもと過ごしながら、ものづくりを楽しんで、これからも続けていけたらいいなと思っています」
今後挑戦してみたいこととして、memさんは草木染めや新しい技法への挑戦を挙げます。
「庭に咲いている草花で紙を染めたり、異なる素材を組み合わせたり、表現の幅を広げることにも関心があります。いろいろな方法を試しながら、これからも作っていきたいですね」
memさんの作品は、何気ない日常の中にある美しさを形にして残していく。そんな彼女のちぎり絵は、見る人の心にも、小さな温かさを届けてくれます。みなさんも、何気ない日常の中にある美しさを形にしてみませんか?

Mem(メム)|イラストレーター

北海道釧路市出身。現在は四季を感じられる自然豊かな東川町を拠点に活動。3人の子どもの母でもあり、日々の暮らしや身近な風景、動物たち、子どもたちの姿からたくさんのインスピレーションを得ている。作品のモチーフは、日常の中にある何気ない瞬間や、旅先で出会った美しい景色。ちぎり絵や鉛筆、インクなど、その時々で心惹かれる技法を使い分けながら、さまざまな表現を楽しんでいる。