おかゆの差し入れ文化。韓国の水筒粥

「韓国ではね、なんか調子が悪いなーってとき、薬とか栄養ドリンクよりも先に”何を食べよう?”って考えるよ」。
韓国の方のこの言葉を聞いて、私は医食同源の意味を辞書的に捉えていたことに気づきました。
食べるものと、薬になるものの、源は同じ。医食同源は、日々の暮らしの言葉だったのですね!


医食同源が根付く国という視点があると、腑に落ちる韓国の習慣があります。それは、おかゆの差し入れ文化。具合が悪い人がいると、おかゆを「持っていく」のです。しかも、水筒に入れて!
近年では口が広く高さの低い魔法瓶「スープジャー」が日本でも一般的になりましたが、韓国ではスープジャーのような専用のものではなく、ごくごく普通の魔法瓶の水筒(!)におかゆを入れて差し入れをする文化があるそうで。韓国ドラマでもよく見かけるシーンです。



不思議です。日本では、具合が悪い人におかゆを食べてもらうとしたら、できたてのおかゆを用意しますよね。材料を持っていって、その場で調理をして、できたてをはいどうぞ、と。
なぜ、韓国ではおかゆを「持っていく」という発想になったのでしょうか。


お粥研究家の私の見立てでは、そもそものおかゆの違いが大きなポイントです。
日本のおかゆはできたてが命。できたてのおかゆは照りがあり、口当たりがさらりとしていています。お米の香りが華やかでそれはそれはおいしいのですが、残念ながら時間が経つと糊のようなベタッとした食感になっていきます。儚い!



一方、韓国のおかゆは油を使って乳化させたり、米粒をミキサーで潰したりと、ポタージュのような食感に仕上げるものが多いです。
もともとの完成系が「どろり」としたも食感であるため、時間が経ってもテクスチャが安定しています。おかゆのおいしい時間が長いから、テイクアウト・宅配サービスとの相性も良く、家庭のおかゆも「持っていく」という発想が生まれたのではないかと私は考えています。


日本式のおかゆの差し入れは、お家に入る必要がありますから、相当の親しさがないとできません。でも、韓国のおかゆように「持ち運べるおかゆ」であれば、ずっと気軽におかゆを贈ることができそうです。誰かの身体を思いやりおかゆを贈るやさしい文化が、日本でも広まると素敵だな、と思っています。



▼プロフィール
お粥研究家 鈴木かゆ 1993年生まれ、お粥研究家。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動。JAPAN MENSA会員。