ひと手間の豊かさ

かんたんな食事こそ、何かをいじりたくなります。
ほんのすこしのことです。お湯を注ぐタイプのスープに、たっぷりの黒胡椒をかけたり。宅配のパスタを電子レンジで温め直して、粉チーズをかけたり。
食事のおいしさとして何かが足りないわけではないのですが、なぜか昔からこの類のひと手間が大好きです。


給食の「白いごはん」にも、そんな思い出があります。わたしの通っていた学校では、一人分のごはんを器に盛りつけるのはなく、銀色の缶のようなお弁当箱に入ったごはんが配られていました。
あつあつだから、ふたを開けた瞬間のごはんの香りを独り占めできるのがいいところ。うれしくないところは、米粒がベターっと平らになっているところ。
炊飯器でごはんを炊いたのを忘れて、数時間後に開けたときのごはんの表面って感じで、これが理由で給食の白ごはんが苦手な子もいました。
ところが、わたしには秘密の「ひと手間」がありまして。
自分のお箸でごはんに空気を含ませるようにやさしくほぐすと、ちゃんと米粒が立って、ふわっとごはんに大変身!ごはんをふわっとさせて、あらためていただきますをし直すと、なんだかほっとしたことを覚えています。



温めたり、何かをかけたり、盛りつけなおしたり。ちょっとのひと手間にどうしてほっとするのでしょう。
少々大袈裟な表現かもしれませんが、わたしの場合、自分の食事の主導権が自分にあると感じるのかもしれません。


自炊をすれば、食事の量も、盛りつけ方も100%自分の自由です。
でも、いつもいつでも自炊をするゆとりがあるわけではない。でも、ちょっとは、参加したい。最後の仕上げだけでも、参加をしたい。
自分の食事を自分で選んで、自分も関われているような、そういう感覚を持ち続けられることこそが自分の暮らしの主人公である証拠だと思うのです。


別添の調味料を器のフチに沿ってドーナツ型にパラパラとかけたり、ハートを描いてみたり。
ね、ちょっとしたひと手間で、わたしのためのごはんになる魔法!いただきますが自然とでてくるような食事は、とってもとっても、豊かです。



▼プロフィール
お粥研究家 鈴木かゆ 1993年生まれ、お粥研究家。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動。JAPAN MENSA会員。